第2回 建設技能者の労働条件の改善 - 勤労者退職金共済機構 副理事長 六波羅 昭

建設市場の縮小が廃業、倒産、失業、価格破壊、品質低下などを引き起こしているが、現場の労働条件の切り下げが、ここへきて一段と厳しくなっているようだ。低価格指値のしわよせは最後に労務賃金や労働福利の切り下げまできて止む。また、直用労務から労務請負への切り替え、月給制から日給制へ逆行なども目立つようになったともいわれる。こうして、賃金だけでなく社会保険や退職金、年金あるいは安全対策などへ深刻な影響が出ている。

米国では、職別労働組合であるユニオンの存在が労働条件の改善に大きな役割を果たし、不況時には賃金切り下げの対抗力として力を発揮してきた。全米14の建設職別ユニオンの地区支部と同じく建設業者団体の各地区支部の間で締結された労働協約において、賃金、付加給付、労働時間、休日、超過勤務などが決められる。ユニオンから労働力を調達しようとする企業はこの労働協約に縛られるが、質の高い技能労働者を確保できる。建設労働者の賃金水準は他産業より高いといわれている。教育・訓練プログラムも支部ユニオンと建設業者団体の各地区支部及び企業の共同事業として行われている。米国で特徴的な制度として、連邦政府の工事(補助事業を含む)について適用する賃金と付加給付を定めるデービス・ベーコン法である。これにより賃金は地域ごとに定める通常賃金を下回ってはならず、また、雇用者は最低週1回現場で労働者へ直接に賃金を支払う義務がある。

ドイツでは、マイスター制度の伝統から専門技能職の職階と教育・訓練の仕組みが整っている、また、賃金などの労働条件は、2つの建設業団体と最大の労組である建設環境労働組合が州ごとにきわめて詳細な労働協約を締結している。フランスでも全国レベル、地域レベルの経営者団体と労働組合が労働協約を締結している。英国も経営者団体である建設連合と建設関係労働組合(ユニオン)との間で作業規則協約を締結する。ただし、これは強制力がなく、雇用契約の基準として広く採用されている。作業規則協約には、賃金、付加給付、労働時間、最低週休保証、年間の休暇、疾病手当て、解雇などが含まれる。

これらに相当する日本独自の仕組みを欠いていることが、技能労働者の労働条件を深刻にし、また、出口がない難しい問題にしている。はたしてどのような可能性があるだろうか。労働組織の組織強化と職種拡大によって欧米のような労働協約を締結する方向が可能なのかどうか。その場合でも、米国のような強制力を持つもの、英国のような参考基準的なものなどさまざまな形がありうる。むしろ、専門工事業団体の機能として教育・訓練と労働条件の下支え役を期待できるのかどうか。あるいは、建設労務安全研究会の提言(2002年11月)する「建設技能検定・登録センター」を核とした「連携請負方式」により、技能資格と労働条件を一体のものとして市場制度にできるのかどうか。これらの可能性を検証し、その実現に向けて真剣に取り組まなければならない。

工事単価の切り下げや社会保険料など福利関係費の負担増から直用から準直用や請負への雇用関係の切り替えが進行し、また、下請重層化の深化など雇用環境がさらに悪化しており、こうした状況の改善を図ることも労働条件の改善に向けて取組むべき重要な課題である。したがって、先に述べた適正な労働条件等の遵守の制度的な仕組みを整備することと並行して、過度の価格切り下げ、福利関係費の負担回避、下請重層化の深化などを是正する対策を検討する必要がある。